大会長のお薦め企画
第59回日本リハビリテーション医学会学術集会のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。本学術集会の企画は、実行委員会が検討に検討を重ねたものばかりで、そのすべてが参加者にお薦めできるものです。そこで、何回かに分けて企画に込めた思いをお伝えしたいと思います。
第1回 特別講演編
第1回は学術集会の目玉である「特別講演」です。今回は7つの特別講演を企画しており、各演者から内諾を得ています。講演タイトルはまだ正式に決まっていませんので、演者の先生方を順不同で紹介させて頂きます。
上田敏先生
上田敏先生は、1963年、東京大学医学部附属病院に日本の大学病院で初めてとなるリハビリテーション部門を設立することに尽力され、後に初代の専任教授となりました。Brunnstromの脳卒中片麻痺評価法を精密化した12グレード片麻痺機能テストで知られています。上田先生は「総合リハビリテーション」の考え方を日本に広めた先生としても有名であり、特別講演でも考え方の神髄を伺えると思います。
伊東亜紀子先生
伊東亜紀子先生は、2006年の国連大会で採択された「障害者権利条約」に国連内で深く関わられ、最近は障害者組織やISPRM とも協働して、リハビリテーションを障害とSDGsの枠組みに組み込んでいくイベントなども開催されています。リハビリテーション医療に関わる専門職にとって障害者権利条約は必須の知識であり、その全体像や位置付けを理解する機会になると思います。
熊谷晋一郎先生
熊谷晋一郎先生は、小児科医であり、脳性麻痺当事者です。「当事者研究」という領域を確立され、東京大学先端科学技術研究センターで「当事者研究ラボ」を主宰され多くの研究成果を発信しています(https://touken.org/)。また東京大学バリアフリー支援室の室長も務められています。私は「リハビリの夜」という本を読ませて頂いて以来、熊谷先生の情報発信に注目していました。今回はどのようなお話を伺えるのか楽しみです。
河合純一先生
河合純一先生は、全盲の元競泳選手で、6回のパラリンピックに出場し金メダル5個を含む計21個のメダルを獲得し、2016年にはパラリンピック殿堂入りを果たしています。現在は日本パラスポーツ協会などで障がい者スポーツの発展に尽力されており、2021年に開催された東京パラリンピックなどに関するお話を伺えると思います。
遠藤秀紀先生
遠藤秀紀先生は、東京大学総合研究博物館で遺体科学研究室を主宰されています(http://www.um.u-tokyo.ac.jp/endo/)。私は2013年にある講演会でご一緒する機会があり、動物の遺体解剖から導かれる比較形態学を基盤とした彼の研究成果に魅了されました。その際に紹介されていた「東大夢教授」という著書は非常にユニークで、遠藤先生のお人柄が偲ばれます。今回は進化形態学的視点からヒトの運動器についてお話しして頂けるとのことで、ワクワクしてしまいます。
中澤公孝先生
中澤公孝先生は、東京大学の総合文化研究科でニューロリハビリテーションに関係した研究をされています(http://www.neuro-reha-sport-lab.com/)。特にこの数年は障がい者スポーツのアスリートを対象に運動と脳機能の関係を積極的に研究しており、ユニークな結果が多く得られています。2021年に上梓された「パラリンピックブレイン」という本にはその成果が多く記されていますが、講演でも動画とともに多くの成果が紹介されると期待しています。
石井直方先生
石井直方先生は、2020年3月まで東京大学総合文化研究科で筋生理学やトレーニング科学の研究に従事され、現在も研究を継続しながら様々な分野で活躍されています(http://www.wildlife.jpn.com/wildlife-consul/ishii/)。20代の時にはボディビルミスター日本優勝・世界選手権第3位など輝かしい成績をあげておられ、正に筋肉のプロフェッショナルです。一般向けの著書も多い石井先生ですので、今回はどのようなお話が伺えるのか楽しみです。
以上、私が昨年3月まで東京大学に勤務していた関係もあり東京大学の関係者が多くなっていますが、様々な側面からリハビリテーション医学・医療に役立つお話を頂けると確信しています。是非多くの参加者に、できれば現地で特別講演を聞いて頂くことを期待しています。
第2回 知と実践セミナー編
第2回は本学術集会のテーマ「知と実践のプロフェッショナル」にちなんだ企画「知と実践セミナー」です。リハビリテーション医学・医療のプロフェッショナルを目指す、特に若い医師や関連専門職種の方々に役立つ内容を分かりやすくお話し頂けるように、26分野の専門家にお願いしました。日本リハビリテーション医学会の役員など参加者には馴染みの先生が多いですが、もしかしたらご存じないかも知れない演者の方を紹介させて頂きます。
井川靖彦先生
井川靖彦先生は泌尿器科医で、特に神経因性膀胱を専門にされています。私は二分脊椎症の診療を通じて長くお付き合いさせて頂いており、二分脊椎や脊髄損傷の排尿管理に関するガイドライン作成にも関わっておられます。今回は「排尿ケアにおける専門知と実践知の融合」という「知と実践セミナー」にふさわしいタイトルでお話し頂きます。
橋本圭司先生
橋本圭司先生は国立成育医療研究センターのリハビリテーション科で小児リハビリテーション、特に発達障害の診療に積極的に関わられた後、「はしもとクリニック経堂」を設立し様々な取り組みをされてきました。現在は昭和大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授としても活躍されています。今回は「神経発達症児者の支援の実際」として、具体的な実践を紹介していただけると思います。
中島康晴先生
中島康晴先生は九州大学整形外科の教授で、2021年5月より日本整形外科学会の理事長をお務めです。中島先生のご専門は股関節疾患で、私も小児股関節疾患の関係で以前よりお付き合いさせていただいています。運動器リハビリテーションに関する造詣も深く、今回の講演は「股関節疾患とリハビリテーション・スポーツ」のタイトルでお話しいただけます。スポーツの観点から股関節疾患をどのように見ていらっしゃるのか、内容が楽しみです。
斉藤秀之先生
斉藤秀之先生は2021年に日本理学療法士協会の会長に就任された先生です。臨床の現場でご活躍されながら日本理学療法士協会の活動に関わり、特に2022年4月から開始された新生涯学習制度の設計に尽力されました。この制度は座学と実地経験を求める、正に「知と実践」を具体化したものであり、講演では斉藤先生の知・実践の考え方をうかがえると思います。
「知と実践セミナー」ではリハビリテーション関連専門職種の協会として、他に日本作業療法士協会の中村春基会長、日本言語聴覚士協会の深浦順一会長、日本義肢装具士協会の野坂利也会長にもご講演いただきます。
是非多くの参加者に、できれば現地で「知と実践セミナー」を聞いて頂くことを期待しています。
第3回 海外講演編
第3回は海外講演で、アジア、オセアニア、北米、南米、ヨーロッパの9名の先生にお願いしました。コロナ禍のため来日頂けない先生が多いのですが、講演の時間帯を工夫し現地とのライブ中継を結び、会場とやり取りできる環境も整えています。ここでは5名の演者について紹介します。
Leonard Li先生
香港大学のLeonard Li先生は、現在ISPRM(国際リハビリテーション医学会)のPresidentを務めています。今回は”Integration of Neuromuscular Ultrasonography with Electrodiagnostic Medicine”という魅力的なタイトルでお話しいただけます。
Jorge Laíns先生
今年7月にポルトガルでISPRM2022を主催されるJorge Laíns先生にもお引き受けいただきました。Laíns先生は日本リハビリテーション医学会のCorresponding Memberでもあり、ISPRMの準備でご多忙にもかかわらず、”From Neuroplasticity to Stroke Rehabilitation”のタイトル講演していただくことになりました。
Volker Hömberg先生
ドイツのVolker Hömberg先生はWorld Federation for Neurorehabilitationの次期会長です。彼には” Neurorehabilitation: Future trends”のタイトルでニューロリハビリテーションの未来を語っていただきます。
Heakyung Kim先生
米国Columbia大学のHeakyung Kim先生は、最近Texas Southwestern大学に移られたようです。私はISPRMの教育委員会でずっと一緒に仕事をしてきました。彼女の専門は小児リハビリテーションで、中でも脳性麻痺が得意分野です。今回も” Trajectory of Spastic Cerebral Palsy: Young to Old”のタイトルで、小児から成人までのお話をして頂けます。
Jae-Young Lim先生
ソウル大学のJae-Young Lim先生は、現時点で来日を予定されています。彼の研究分野は多岐にわたっていますが、今回は” Progression in Cancer Rehabilitation toward the Decade of Healthy Ageing”のタイトルで、がんのリハビリテーションについてお話しいただきます。是非直接会場で講演を聞いて、ディスカッションに参加して下さい。
海外講演では同時通訳を準備していませんが、英語が得意でない参加者の方もオンデマンド配信を使えばじっくり聞くことができると思います。海外の「知と実践」に是非触れてみて下さい。
第4回 規定講習会編
第4回は規定講習会です。規定講習会は専門医の更新に必要な講習で、従来「医療安全」、「医療倫理」、「感染対策」の3つを受講することが専門医更新条件に位置付けられていました。日本専門医機構では昨年度に規定講習会(日本専門医機構では共通講習と呼んできます)の見直しを行い、従来の3つを「必修講習A」とし、更に「必修講習B」として、医療制度と法律、地域医療、医療福祉制度、医療経済(保険医療等)、両立支援の5項目を追加しました。詳細な運用はこのページの最後に述べますが、規定講習会の受講単位は専門医の更新に必要な50単位の中に含めることができますので、他の教育講演等と併せて受講して頂くことで更新基準を満たすのに役立ちます。ここでは新たに加わった必修講習Bも含めて、規定講習会の中からいくつかを紹介します。
医療制度と法律
「医療制度と法律」を担当される瀬尾雅子先生は日本初の大学病院の院内弁護士として、私が東大病院副院長の時に大変お世話になりました。医療機関における様々なコンプライアンスの考え方をお話しいただきます。
医療安全
「医療安全」を担当される埼玉医科大学総合医療センターの中島勧先生は、整形外科医として救急医療にも深く関わる中で、医療安全を専門にされてきた先生です。医療安全に対する考え方は時代とともに変わってきており、新しい考え方について学ぶ良い機会と思います。
医療倫理
「医療倫理」を担当される藤島一郎先生は、摂食嚥下リハビリテーションで著明な先生です。藤島先生は医療倫理の考え方にも造詣が深く、「臨床倫理の考え方と診療」のタイトルで摂食嚥下障害にも言及される非常に興味深いお話が伺えると思います。
地域医療
「地域医療」を担当される浜村明徳先生は、小倉リハビリテーション病院で長年に亘り地域医療に貢献されてきた先生です。リハビリテーション医療の貢献が大きく期待される地域医療について、地域包括ケアとの関係性を含めてお話しいただけます。
これら以外の4つの規定講習会も、内容が魅力的なものばかりです。多くの参加者に、できれば現地で「規定講習会」を聞いて頂くことを期待しています。
なお2025年度までは猶予期間ですので、学会専門医から更新した機構認定専門医は必修講習Bの受講を2026年3月31日まで猶予されますが、早めの受講をお勧めします。また新専門医制度で機構専門医となられた先生のうち、「多様な地域における診療実績」が認定された場合は必修講習Bが免除されます。詳細は6月初めまでに日本リハビリテーション医学会のホームページに掲載される予定の「リハビリテーション科専門医更新基準」を参照して下さい。