会長挨拶

第 26 回日本臨床救急医学会総会・学術集会
会長 森村尚登
(帝京大学医学部 救急医学講座 主任教授)

 第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会の会長を仰せつかりました帝京大学医学部救急医学講座の森村尚登です。今回の総会・学術集会は、副会長として東京都医師会副会長の猪口正孝氏、ならびに東京消防庁救急部長の門倉 徹氏と東京都看護協会の淺香えみ子氏にご就任いただき、2023年(令和5年)7月27日(木)〜29日(土)の3日間の会期で、帝京大学板橋キャンパス(東京都板橋区加賀2-11-1)において開催いたします。

 会場となる帝京大学板橋キャンパスは、東京23区の北西部に位置する板橋区内にあり、旧中山道「板橋宿」周辺の名所・史跡をはじめとした有形・無形の文化財が今も数多く息づいている街の中にあります。

 今回の学術集会のテーマは「救急医療の可視化と暗黙知」です。『可視化』が目指すところは「繫ぎ、舫(もや)う」です。点から線へ、線から面へ、面から球へ。人、モノ、情報を迅速に簡便に繋ぎ、そして舫う(留める)。等しく医療はチームで実践されています。一昔前は、チーム医療と言う言葉がもてはやされていました。今となっては当たり前の用語です。チームと言うからには、チームメンバー全員が情報を共有しながら診療にあたらなければなりません。消防と病院の協働や病院と病院の連携も同じです。プレホスピタルと来院後の情報が統合されることの重要性はもう論をまちません。地域の病院間での情報共有は、水平連携、垂直連携の双方の視点からことさら重要です。適時適切な情報共有は業務の質の改善に直結します。目指すべきは、努力しなくても互いに情報が共有できるシステムの構築と、「例え共有できていなくても、、、」といった文化の涵養です。後者は時間がかかりますが、前者は日々の業務の見直しと近年ますます加速するテクノロジーの進化によって必ずや飛躍的な改善が得られていくものと思います。緊急度が高い、すなわち重症化するスピードが速い病態に対応する救急医療において、ことさら時間は重要なカギです。その限られた時間の中でいかに情報を、組織間、部門間、職種間で継ぎ目なく繋ぐのか。そしていかにその情報をしっかりと関連する全ての人に「舫う」のか。産官学がその力を結集して取り組まなければならない喫緊のテーマと考えます。

 もう一つのキーワードは『暗黙知』です。個人の経験や勘などに基づいた、他人に説明することが難しく言語化しにくい知識のこととされています。いわゆる職人技や、高い調整能力や対人交渉のセンスを有する人が持っている(と思われる)知識です。相対する用語に『形式知』があります。数値、文章、図表などによって表された客観的な知識を指し、マニュアルやガイドラインによる記載がこれにあたります。「そんなこと言わなくてもわかるでしょ」を磨くにはどうすればいいのか。誰でも簡単に職人技を獲得できるようになるにはどうすればいいのか。それには『暗黙知』を『形式知』に変換する、すなわち職人技をマニュアル化し、それらを普及させる必要があります。どこで誰が倒れても最良の救急医療を提供できる体制作りを目指すためには絶対不可欠な要素です。

 シームレスな情報の『可視化』と、暗黙知から変換された形式知の集積と普及、そしてそこから生み出されるさらなる高みにある『暗黙知』こそが、質の高い救急医療体制を継続的に牽引する両輪であると思います。

 このようなテーマに基づき今回の学術集会では、会員職種や所属構成の特徴を基に、職種・部門横断的な課題を整理して演題のカテゴリー化をしたいと思っています。いずれも「繫ぐ」と「マニュアル化」をキーワードに課題を共有し、対策について議論する場を作りたいと思っています。発表形式は、改めて学会の在り方を考えて原点回帰することにいたしました。多くの学術集会は、ただ一つの会場で研究会からスタートしていると思います。当初が最も議論しやすくそれゆえ議論も活発であったと回顧します。そこで、シンポジウムを初めとする大きな提言の場は、多くの人に聞いていただくために事前配信のオンデマンドでウェブ配信の方針とし、会場では一般演題とポスター演題を中心にして、対面で多くの議論を交わすことができるようにしたいと思います。VR(バーチャル・リアリティ:仮想現実)やアバターも導入予定です。

 それでは、皆様の多数のご発表、ご参加をお待ち申し上げます。