会長挨拶

第10回肝臓と糖尿病・代謝研究会
当番世話人 竹原 徹郎
(大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学)

第10回肝臓と糖尿病・代謝研究会を2024年7月6日(土)に淡路夢舞台で開催いたします。この研究会は2014年から日本肝臓学会と日本糖尿病学会の共同で運営されており、1年おきに日本肝臓学会と日本糖尿病学会が交代で開催しています。新型コロナウイルス感染症の影響で、途中1回が延期になりましたが、このたび第10回の節目を迎えることになりました。当番会長として、そのような会を担当させていただくことをたいへん光栄に存じております。

NASH/NAFLDはもっとも頻度の高い肝疾患であり、近年、糖尿病を合併した症例が増加しています。また、糖尿病患者の最も頻度が高い死因が肝癌や肝硬変をはじめとした肝疾患であることも知られています。日本肝臓学会と日本糖尿病学会は、2021年5月に、糖尿患者において進行した肝疾患を層別化する因子としてFIB-4インデクスが有用であることを、「共同声明」として発表しました。これは両学会がこの研究会の発足時から取り組んできた共同研究の成果でもあります。また、日本肝臓学会は2023年6月に「奈良宣言」を発表し、一般診療においてALT 30 U/L超を呈する患者からの肝疾患の拾い上げについて、広く啓発活動をはじめました。これらは、いずれも診療科間の連携を深め、患者さんの生活の質や予後の改善に貢献するための取り組みです。また言うまでもないことですが、肝臓は代謝の中枢臓器であり、肝臓と糖尿病の連関は学問的にも極めて奥深い分野です。折しも2023年6月に、AASLD/EASL/ALEHは兼ねてからの懸案であったNASH/NAFLDの呼称をMASH/MAFLDに変更するという国際的な合意を発表しました。日本肝臓学会もこの呼称変更に賛同しています。MASHはmetabolic steatohepatitis、MASLDはmetabolic dysfunction associated steatotic liver diseaseの略称です。いずれも「代謝」という文言が挿入されており、従来に比べると少なくとも一つの代謝要因を有することが強調されています。このような国際的な動向も「肝臓」と「糖尿病」あるいは「代謝」が今後ますます密接な学問領域あるいは診療領域として発展していくことを示しています。

肝疾患領域では、近年ウイルス性肝炎の治療や進行肝癌の薬物治療が急速に発展しています。しかし、直接作動型抗ウイルス薬(DAA)でC型肝炎ウイルス(HCV)の排除を行っても、その後に発癌をきたす症例があります。そのリスク因子として「代謝」要因があることが注目されており、単なるウイルス排除だけではなく、代謝臓器としての肝臓に取り組むことがウイルス性肝炎の患者の真の予後の改善には必要です。また、肝癌の背景疾患として、脂肪肝を背景としたものが急増していることは周知の事実ですが、背景疾患により癌の免疫微小環境が異なることが指摘されています。「代謝」と「癌」は単に研究的な興味だけではなく、実際の診療上でも注目される分野になっています。

本研究会では「肝臓」、「糖尿病」、「代謝」、「肥満」、「ウイルス」、「癌」を広範に扱い、2024年の時点で最先端の議論ができる舞台にしていく所存です。充実した研究会にしたいと考えておりますので、皆様方のご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。