会長挨拶
日本臨床麻酔学会 第40回大会
会長 齊藤 洋司
島根大学医学部麻酔科学
日本臨床麻酔学会第40回大会の会長を務めさせていただくにあたり、ご挨拶を申し上げます。第40回大会は、2020年11月12日(木)から14日(土)に、島根県民会館とくにびきメッセにおいて開催を予定し、鋭意準備に努めてまいりました。しかしながら、新型コロナウイルス禍の状況から松江市に参集いただいての学術大会開催を断念せざるを得なくなりました。何よりもいつ、どのように感染状況が変化するかどうかの予測が困難であることが決断の理由です。このため、第40回大会はオンラインによる学術大会として、ライブセッションとオンデマンドセッションの2つの形式で開催させていただきます。
大会テーマは、「ZANSHIN~臨床麻酔の心~」としました。本大会の開催地となる松江市はお茶文化の町です。残心(ZANSHIN)は茶道の基本的な教えであり、その神髄は千利休の道歌「何にても 置き付けかへる 手離れは 恋しき人に わかるると知れ」によく表されています。茶席が終わってもずっとお客様に心を残すことであり、おもてなしの心、そして今を大切にする一期一会の心でもあります。残心は茶道などの芸道だけでなく、弓道、剣道などの武道の根幹をなす教えでもあります。手技の後も相手への意識を保ち続けることです。麻酔道は、周術期全身管理、集中治療、救急医療、ペインクリニック、緩和ケア、いずれの臨床場面でも芸道の、そして武道の残心と相通じるところが多くあります。残心は、ArtとScienceという両面からみても麻酔道の神髄と言えます。麻酔科医の担う医療は急性期が多く、患者さんと関わる時間は凝縮されたものです。麻酔科医療を経てそれぞれの毎日に戻って行かれます。その人らしい仕合せの日々に戻れるかどうか、私達の急性期医療が基点として重要な役割を果たしています。麻酔管理であっても集中治療管理であっても実際伴にする時間を超えて、その人らしい暮らしへと心を残す麻酔科医療でありたいと願うものです。
八雲立つ出雲の国は神の国、神話の国として知られています。その昔、出雲大社の御祭神である大国主大神様は毛皮を剥がれて苦しんでいた因幡の白うさぎを蒲の穂を使って治したというお話が古事記に残されています。蒲の穂には炎症を抑える作用があり、この故事から、大国主命は医の神様と云われ、出雲は古来より医療発祥の地とも伝えられています。この出雲の国から今の医療に心残す、そのような思いと日本臨床麻酔学会のこれまでの40年の歩みとを重ねながら、さらなる40年の歩みに心継がれていく学術大会にしたいと考えています。
「ZANSHIN~臨床麻酔の心~」のテーマのもと、「教育」と「交流」に主眼を据えたプログラムを多く企画しています。これまでにない斬新な企画として、英語セッションを設けること、ワークショップを英語で開催すること、アジア諸国を中心とした若手麻酔科医にトラベルグラントを助成することなどを予定していました。残念ながらこれらプログラムも中止とせざるを得なくなりました。英語のセッションも中止とさせていただきますが、海外からの英語演題につきましては一般演題のオンライン発表をしていただけるようにしております。
オンライン開催となりますが、その特徴を十分に活かし有意義な学術交流となりますよう、お一人お一人の心に残る学術大会となりますよう、皆様のご参加、ご支援をよろしくお願い申し上げます。