会長挨拶

第8回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会
会長 江本 憲昭
神戸薬科大学 臨床薬学研究室
神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野

 第8回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会を副会長の田邉信宏先生、三谷義英先生、新家俊郎先生、吉藤元先生とともに神戸にて開催させていただくことになりました。このような栄誉ある機会をいただきましたこと、会員の皆様方に心より感謝申し上げます。

 肺高血圧症に対する診療はこの20年あまりの間に目覚ましい進歩を遂げました。これには有効な治療薬の開発およびそれらの適正使用や新たな治療手技が確立されたことが大きく寄与しています。現在、わが国の専門施設における肺高血圧症の治療成績は世界のトップレベルと言って過言ではありません。しかしながら、早期の診断や適切な治療が遅れたために十分な治療効果を得られない症例が今なお一定数存在することも事実です。

 希少疾患である肺高血圧症の診断や治療は、当該領域の知識と経験の豊富な専門施設のみで担当する方が効率的であるかもしれません。しかし、わが国の現行の医療制度を踏まえると一部の国のように肺高血圧診療を完全に集約化することは現実的ではありません。したがって、わが国では肺高血圧診療の裾野をさらに広げ、診療レベルの均てん化をはかることが必要なフェーズにあると感じています。

 一方、現在使用されている薬剤では十分な効果が期待できない症例がいまなお認められることから、作用機序やアプローチの異なる新規治療法の開発が望まれています。そのためには基礎、臨床を問わず肺高血圧症に関する研究領域において何らかのブレイクスルーが必須であると考えられます。

 上記を踏まえ、今回の学術集会のテーマは、「肺高血圧クロスボーダー」としました。これまで肺高血圧・肺循環領域では診療科間のボーダーや職種間のボーダーを越えた連携がすでに実践されてきました。今回は、さらに踏み込んで、専門施設と非専門施設のボーダー、地域間のボーダー、基礎研究と臨床研究のボーダー、さらには診療科内に存在するボーダーを越えた連携をイメージしています。従来の枠組みを積極的に越える取り組みが肺高血圧症の診断や治療において新たなブレイクスルーをもたらすことを期待しております。

 最後になりましたが、今回、日本肺高血圧・肺循環学会と日本小児肺循環研究会が合併することになり、第8回学術集会は統一した形で開催される記念すべき最初の学術集会となることをご報告申し上げます。長い歴史のある日本小児肺循環研究会の会員の皆様方とともに協働することで、第8回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会が新たな連携を構築・進展できる機会となることを祈念しています。