会長挨拶
第77回 日本食道学会学術集会
会 長 安田 卓司
近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門 主任教授
第77回 日本食道学会学術集会開催に向けて
このたび、第77回日本食道学会学術集会会長を拝命し、令和5(2023)年6月29日(木)、30日(金)の両日、大阪国際会議場で開催させて頂くことになりました。歴史と伝統があり、私をここまで育て、成長させてくれた本学術集会の会長を務める機会を頂きましたことを大変光栄に存じます。その責任の重さに身の引き締まる思いではありますが、精一杯本学会に恩返しをするつもりで職務を果たしたいと思います。
本学会は、昭和40(1965)年に食道疾患研究会として設立され、平成15(2003)年には学会に移行して今日まで食道癌治療を中心に日本の食道疾患の診断と治療に関するオピニオンリーダーとしての役割を果たしてきました。本年9月に改訂・発刊された「食道癌取扱い規約」も1969年の第1版から数えて第12版を重ね、ガイドラインも2002年の第1版から数えて第5版が同じく9月に「食道癌診療ガイドライン2022年版」としても発刊されました。西欧諸国とは組織型も治療戦略も全く異なり、TNM進行度規約も異なる中で、手術治療を中心に集学的治療を開発し、内視鏡や画像診断ならびに切除標本の詳細な病理検索を経て我が国独自の食道癌に関する診断・治療を追求し、他の追随を許さないレベルまで発展させてきました。しかし21世紀に入ってからの医学の発展と医療機器の進歩はめざましく、胸腔鏡やロボット支援下手術といった手術手技は勿論、内視鏡の診断・治療技術、放射線の照射技術の大幅な向上や免疫チェックポイント阻害剤といった新規薬物治療の登場などにより食道癌治療はより専門的に、より集学的に、より個別化して適応していくことが求められています。また、良性疾患に関しても保存的治療の限界、外科的治療の適応およびそのタイミングなど治療の判断の専門性は高度化しています。その意味で本学会は、外科、消化器内科、腫瘍内科、放射線科などの臨床医学と病理学、生理学、免疫学や分子生物学などの基礎医学も含めた多領域の医師が横断的に参画する貴重な学会であり、学術集会を通じて一同に会し、自由な意見交換を基に患者にとって最適の治療がシームレスに届く治療開発が本学会では可能であり、診療科間におけるより緊密で速やかな連携は更なる成績向上を目指すには不可欠のkey wordと考えます。その意味で、外科系以外の医師の皆さんにより多く参加して頂き、各領域の考え方や経験をより深く知ることでより横断的な治療連携が各施設に、そして全国に浸透していく良い機会になればと期待する次第です。奇しくも来年(2023年)は学会移行後20周年の節目、つまり人間でいうと成人式を迎える年にあたります。これを機会に非外科系会員の増加を図り、診療科間の垣根のないdiscussionを通じてこの治療戦略のparadigm shiftに対応し、世界をさらにリードする学会へと成長していくための新たな一歩を刻むことができればと考えます。 さて、本学会のテーマについてですが、これからの治療は各診療科間の連携による集学的治療であることは言うまでもありませんが、今後も更なる向上を目指して各科が努力を継続することが必要です。多くの先達が諦めず、食道癌の成績向上を目指して努力を続けてきた結果、以前は治癒不可能と思われた食道癌も今や治る時代になっています。しかしまだまだ高度進行癌や術後再発は多く、やるべき課題は山積みです。そこで、表テーマとしては私の座右の銘である「Where there is a will, there is a way. 〜 意志あるところに道ありき」とし、裏テーマとして「医師あるところに未知ありき」とさせて頂きました。まだまだわからないことは多い。でも、諦めずに継続していればきっと道は拓かれる。そう言う意味を込めたつもりです。ぜひ日本食道学会の英知を集結して更なる高みへ進むことができればと期待します。
covid-19の感染拡大を受けてこの2年半近くはほとんどの学会・研究会が完全webまたはhybridでの開催に移行せざるを得ない状況下にありました。確かにwebの利用は利便性、効率性の点では有用ですが、webで得られる情報はdryなデータであり、face to faceの議論、情報交換には遥かに及ばないというのもよくわかりました。第77回学術集会は、できる限り現地開催にこだわり、各診療科が現地に大いに集い、open discussionでより互いを知り、より経験を深め、それらを共有できる学会にしたいと考えています。プログラムとしましては、外科系に偏ることなく、疾患テーマとしては食道癌と食道の運動機能性疾患を2本柱に、外科、内科、放射線科、病理・基礎系が一同に介して議論できる企画をできるだけ多く組みたいと考えています。できれば食道癌に関する学術集会cancer boardを企画して症例検討も企画したいと思いますし、外科医としては急速に進歩する外科手術手技に関する胸腔鏡、縦隔鏡、ロボット支援下から超進行癌に対する手術手技企画も組み入れて、参加された全員が飽きることのないプログラムを企画したいと考えています。昼間は学会で熱く議論し、学び、夜は大阪の食道楽を堪能し、時間があれば通天閣やUSJで羽を伸ばして明日への英気を培って帰っていただければ幸いです。医局員一同全力でおもてなしをさせて頂きますので、多くの先生方が大阪へ来られますことを楽しみにしてお待ちしています。
謹 白
2022年10月吉日